「人間にとって幸せとはなんなのか?」都会生活に疲れた定年間近の教師が一念発起。向かった先は日本のなかの亜熱帯・西表島。そこには「イリオモテのターザン」こと恵勇爺がいた・・・

八重山毎日新聞紹介記事
1980年後半から97年にかけて西表島網取湾のウダラ浜で、たった一人で住んでいた老人がいた。イリオモテのターザンと呼ばれた砂川恵勇さん(故人)である。
水田耕平さん(68)=兵庫県明石市=は、90年と93年に恵勇さんと過ごした経験をつづった「イリオモテのターザン」を、このほど出版した。
90年当時、中学の美術教師だった水田さんは、修士号取得を目指し2年間の国内留学、現場を離れ大学院に通っていた。修士論文の課題は富岡鉄斎論だったが、儒教、仏教、道教、禅と研究対象は広がり、「無為」という難解な言葉に出合う。「毎日の生活のなかで、どうしたら、そんな心境になれるのか」。理解ができず行き詰って悩んでいたころ、「テレビで見た『イリオモテのターザン』を思い出し、ジャングルのなかに自分の身を置いてみようと思った」。衝動にうながされるまま西表島行きを決めた。テント袋、最低限の身の回りの物を詰めたリュック、カメラやラジオも持参しなかった。
川がありテントが張れる場所であればよく、ターザン本人に会うことは目的ではなかった。しかし縁があって2人は運命的に出合う。水田さんは、恵勇さんの住まい処で5日間を過ごす。驚きと発見の連続だった日々を、水田さんは兵庫に戻った後、記憶をたどりながら早々に文章に起こし、クロッキーを描き、まとめたものを大学の友人らに見せると反響は大きく、編集経験がある者から本にすることを勧められ、自費出版で1000部発行した。
恵勇さん亡き後も水田さんは、毎年のように西表島を訪れキャンプ生活を送っているが、この間、恵勇さんの思い出を文章に書き起こし、「抽象的過ぎて紹介し切れなかった」自費出版の反省もあり4年前、東京の出版社から新たに本を出す予定だったが、運悪く出版社が倒産。2年後、教師仲間の紹介があり、南山舎から発行することができた。
水田さんにとって「恵勇オジィ」の存在は特別だった。「若いころ自信を失い、自信を持って生きるにはどうすればいいのか、人間の幸せとは? 理想の暮らしとは何なのかと悩んだことがあった」というが、恵勇さんとの出会い・交流は、多くのヒントを与えてくれたようだ。
「恵勇爺(ジィ)は自然と同化し感謝しながら生きていた。魚を捕り、畑を耕し、物々交換が成り立っていた。お金が一切表に出ない暮らしで、複雑なものは何一つ、そのくらしのなかにはなかった。当たり前のことを毎日、ごく当たり前に感謝のうちに続けていく。そのことの有り難さを恵勇爺は確認させてくれた。幸せになれる方法は、そういうことなんだと気づかされた」。水田さんは穏やかな口調で話していた。
『八重山毎日新聞』2009年7月30日付「週刊オーライ」より
>著者水田耕平さんのブログ
本について
著者・挿絵:水田耕平仕様:B6判 417頁
発行:南山舎
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